TwiLight CroNicle 〜心の拠り所〜 第三章 芽吹きの旋律 其十二話


「あーもうっ!何ででないのよー!?」

「何かあったんじゃないよね?」

「流石に電話もできない状況っていうのはないと思うんですけど・・・。」

「大怪我をおって入院中とか?」

「入院!?」

「落ち着けお前ら。」


風芽丘学園高校の入学式を前日に控えた早朝。

高町家一同+αな俺は、恭也と美由紀の連絡を今か今かと待ち呆けている。

予定していた飛行機の出立時刻になっても連絡はない。

先ほどからフィアッセと桃子がガンガン電話を鳴らしているんだが・・・出る気配もない。

何かあったのではないかと皆が大慌てして騒いで、此の状況という訳だ。


「この間も日光が入院してたし・・・まさか・・・!?」

「もう一回!もう一回電話してみて!」

「OK!一寸待って!」

「だから一旦落ち着けと・・・。」


そもそも飛行機乗ったのなら電話できないだろう。


「・・・だめっ、やっぱりでないよ桃子!」

「お師匠たちに限って何かあったとは思えんけど・・・。」

「今回ばっかりは海外だしなぁ。」

「にゃー・・・そもそもお兄ちゃん達の携帯って、海外通話できたっけ?」

「「「「あっ。」」」」

「で、でも今まで夜には電話が・・・。」

「携帯からじゃなくて、何処かの電話を使わせてもらってたんだろ?」

「そういえば見覚えのない電話番号だった気も・・・?」


・・・本当に穴だらけだなお前ら!?








耳に当てた携帯からは、断続的に続く機械的な呼び出し音。

結局、向こうの泊まり先の電話番号を知ってる俺が連絡を取るということに。

陣内の奴も仕事中だろうし、出るとは―――


『はい、こちら陣内。』

「おう、出たか。」


周りで見ていた5人がソワソワと聞き耳を立てる。


「恭也たちはどうだ?」

『君か・・・。彼らは本当に有望だよ。今もうちの部隊と実践訓練を―――」

「今日、帰宅予定日。」


声が止まり、奥のほうでガサガサと何かを漁る音。


『・・・・・・やべ、本当だ。


聞こえてるー。聞こえてるってー。


『そうだったのかい?じゃあこの実践が終わったら―――』


何を何も知らなかった風に装ってやがる。


「忘れてたな?」

『な、何のことかな?』

「あの二人はもちろん。お前さんも忘れてたな?飛行機の日。」

『あ、あはは・・・計画もある程度うまくいったし、あの二人もとても優秀で・・・。』

「鍛えるのに夢中になって日にちを忘れていたと?」

『そ、そのとーりです・・・。』

「計画の進行具合は後で聞くとして、二人は早めに返してくれ。明日入学式なんだよ。片方。」

『なぬ、それは急いで帰さないとな。この訓練終了後・・・ああ、終わったようだ。』


向こうから僅かに、無線を通したような金属音と悲鳴が聞こえる。

まあ、実践を積むのに関しては、良い調子の様だ。

悲鳴を残すのは、御神として二流だが。


『この後、早々に準備をさせて帰そう。飛行機は・・・こちらの過失だし、手配しよう。』

「助かる。」


そして向こうで何やら指示を出すような声。


『夜の便が取れた様だ。今日中には日本に着くだろう。』


夜か、じゃあお土産にも期待しても良いかね?


「そうか、じゃあ2人によろしくな。家族が心配してるって。」

『ああ、一応、一度折り返し電話をかけさせる。』

「頼んだ。」


そう言って、電話を切る。

・・・さて、周りで聞き耳を立てていた連中に事情を説明するか。







「なーんだ・・・じゃあ夜には帰ってくるのね?」

「急にチケット取り直して、今日中に帰ってこれるなら運が良かったよ。」


確かに。


「じゃあ、確認もできたし、私たちはお店のほうに戻るわね?」

「あいよー。」


因みに、桃子とフィアッセは、翠屋での仕事を朝食といって3時間ほどこちらで過ごしている。

その分普段働いてるから良いのだろうが。



ふと、玄関のほうに向かおうとした桃子が振り返る。


「そういえば、日光君は明日からどうするの?」

「明日から?」

「あー、学校始まれば昼間は誰も居らんしなー。」

「日光は何かすることってあるのか?」


あー、そういうこと?

そうか、もう学校始まるんだもんなー。

平日に街中を歩くと補導されそうになる日々が始まると。


「これまでどおり、のんびりと廃ビルを補修する作業かね?」

「いや却下やろ。」

「却下ね。」

「・・・えー。」


・・・何でそんなタイムラグも無しに否定されたよ?

別に良いじゃんかー。


「フラフラして補導されたらどうするの?」

「補導されるなら逃げる。」


後ろから羽交い絞めにでもされない限り逃げられらい。

そんでもって、その言葉は身長方面で言っているととって良いんだな?フィアッセ。


「というかそれって殆ど何もしないってことやろ?純粋にむかつくわ。」

「酷い言われようだな・・・。」


でも却下の理由って殆どそれだろ・・・。

・・・んー、じゃあ。


「・・・翠屋の手伝いでもするか?」

「さすがに長期休みか放課後くらいしか日光君を雇うのは一寸・・・。」


・・・高町家の大人陣は、俺の事は小学生の様に見てると取って良いのだろうか?


「小学生を働かせてるって思われたらねー。」

「そして直球に攻めるなフィアッセ!?」



実際に、この前翠屋で軽くバイトした時、


『坊ちゃん小学生?小さいのにお手伝いえらいねー。』


とかいって、おばちゃんに飴ちゃん渡されたのは地味にショックだったけどっ!

あ、ちゃんと大人だという事は説明したよ?

丁寧に説明した結果、笑ってごめんねで流されたけど。


とまあ、そんな事もあったし、翠屋の件はいいやい。

と、なると・・・どうしようか?

廃ビルの補修が終わったら、昔やってた万屋みたいな事を始めようと思ってたが・・・予定を早めるか?

・・・いや、これはやっぱり補修が終わってからだな。

拠点無しでそんなもん始められないし。

となるとやっぱり、


「遊んで暮らし―――「阿呆か!?」・・・ですよねー。」


はぁ、とため息をつく4人。

なのははよく分かっていないようだ。


「真面目にすることないの?」

「無い!」


それはきっぱりと言える。

いや、廃ビル補修とかはあるけども。

じゃあもういっそのこと、


「学校にでも行くか?」

「「「「小学校に?」」」」

「せめて高校以上だ。」


覚えてろよ貴様ら!?


「とまあ冗談はその辺にしておいて、」

「小学生にと聞いたお前の目はマジだったぞ?桃子。」

「・・・置いておいて。」


・・・ふん、もう良いけどな。


「でも、学生になったら廃ビルの補修が時間かかるじゃないか。それは面倒だぞ?」

「因みにこのまま行くとして、あの廃ビルは何時ごろ完成?」


補強に外装、地脈の自然化、その他強化、内装などの設備充実とかあるから・・・、


「大体、3ヶ月?」

「学校に行くと仮定すると?」

「日の半分は潰れる訳だし、倍の6ヶ月って処か?」

「なんだ、あんまり変わらないじゃない。」

「どの辺が!?」


確かに俺からしたら、3ヶ月も6ヶ月も大して変わらないけどもっ。

普通に言えば確実に長いだろう?・・・長いよな?


「なら学校で決まり。良いわよね?」

「・・・良いけども、どうしてその結論に至った?」

「手続きはできる?」

「できるよ。」

「じゃあ一応書類だけ用意しておくから、書いて置いてね?」

「・・・あれ?」


できるって言ったよな今?

・・・何か企んでる様な気がするんだが・・・。

まあいいか。

面倒になったらやめればいいし。

変なもの用意してきたら文句言えばいいし。





ここで、はっきりと自分で用意しておけばよかったのに・・・。












と、不吉なフラグがたったのはとりあえず放置。

あの後、大人組は店、中学生組は明日の準備ということで買い物に出た。

俺は、残ったなのはとぐーたら・・・、


「ほら、ここまでできるようになったわよ!」

「わたしも・・・ほら。」

「にゃー、にゃー、ネコさん。」


出来ずに、小学生組の魔術訓練に借り出されていた。


「・・・ねえ、確り見てるの?ほらっ!」

「あー凄い凄い。」

「めちゃくちゃ投げやり!?」


アリサはオレンジ色の魔力球を、まるでビリヤードの様にかくかくと一定範囲を反射させている。

球数は3つ、お互いに当たると跳ね返っているから本当にビリヤードの様だ。


「わたしも・・・こんな感じで良いよね?」

「うん、でもすずかは・・・一寸ぶれてる。」

「ぶれてる?」


輪郭が薄いというべきか・・・、触れると消えそう。消えないだろうが。

それ以外は完璧。

球数も3つあるし。制御も出来ている。


「ほらー、日光くん見てみてー。ネコさんー。」

「それは・・・既に式神のレベルじゃないか?」


なのはは、球を猫の形にして歩かせたりと、生きているかのように動かして遊んでいた。

確かにそうやって動かすのは可能だよ?

そうやって細かな操作を身に付けて、まるで生きているような武具を再現する人も居る。

けど、それは極めた人であって、決してこんな初心者じゃない。


「わーなのはちゃんすごい!。どうやって作ったの?」

「やり方教えなさいよー。」

「いいよー。魔力球をこうやってーぎゅーっと・・・。」


うん、まあ作ること自体はそう難しいことではない。

構想自体は素人でも考え付くレベルだ。

それが確り出来るかといったら、才能によって左右されるだろう。

例えば、忍はそういうことは出来ないだろう。

ここの3人は普通に出来る。

その程度の差が、両者にはある。


「んー、あ、ほら出来た。ってあれ?ダックスフンドみたいになっちゃった。」

「あ、わたしも、ネコさん出来たよ。」

「にゃーにゃー。」

「にゃーにゃー・・・あれ?うまく動かせないや。」


まあそんな感じだろ。

形作ってその形で飛ばすのは簡単。

その形を変えながら動かすのは大変。

軽々やってるなのはは恐るべき才能だねぇ。


「よし、今日はアリサとすずかはその作った動物を動かす練習。なのはは増やしてみ?」

「「ええっ!?」」

「操作性を挙げるのは良い事だ。」

「形を作るだけでもかなりきついんだけど?」

「頑張れ。」

「何であたしに対してはそんなに投げやりなのよ!?」


そんな事は無いぞ?様は気合論なんだよ。オド系は。

いや、マナも何も、根っこの部分はほぼ一緒だな。

気合、精神論、つまり=精神力。


「ということですずかもがんがれ。」

「むむむ、猫さんはこんな動きじゃない・・・もっと・・・こう・・・むむむむー・・・・。」


どうやら猫をリアルにしようと四苦八苦しているようだ。

何か一寸怖い。次行こう次。


「にゃー・・・流石に2匹目は一寸・・・。」

「やっぱり一杯一杯か?」

「うん・・・凄く疲れるの。」


ま、初心者で、そんな事やって疲れないとかいったら人間疑うレベルだな。

そういう意味では、人間レベルって事だな。


「その容量増やすために2匹目だ。ファイトッ。」

「にゃー・・・。」


ふむ、みんな四苦八苦してるな。

この辺は殆ど完全に地力上げだし、四苦八苦しなかった今までが異常だったとも言えるが。

・・・初期からこのレベルの修行が普通ってのは、十分な異常事態な気もする。


「ま、それだけ優秀になるでしょ。」


そう言って茶を啜り、これからの授業風景に思いを馳せた。





























一方その頃、恭也's side



―――まだだ、まだ足りない。

銃を持った相手の、意識外から最高速度での奇襲。


『く、くそっ!』


訓練用のゴム弾を数発、手に持つ小太刀で切り落とす。

鋼糸を使って相手の銃を奪い、峰打ちで気絶させる。

隠れていた相手の仲間からの発砲。

神速を使って全力で壁を走り、肉薄、峰打ち。


『壁・・・だと・・・?』


即、気配を遮断し、場所を移動する。



―――ぜんぜん足りない。

力も、早さも、技も――


ズキリと、膝が痛む。


―――そして、体の持久力も。


「いや、そんなことは分かっていた。」


そう、分かっていた。

自分は、御神として、大成することは有り得ない・・・と。

自分で膝を壊してしまった時から、知っていた。


・・・だが、


「それでも、それでも強くならなければ・・・。」


―――御神美沙斗を止めることは出来ない。

会うことは出来た。

話も出来ず、戦うことになった。

ある程度は出来ると、褒められはした。

だが、触れることも・・・出来なかった。


自分が今生きているのは、御神であるという親愛からか、哀れみからか。

力なく倒れた後に交わした、僅かな会話が、心にこべり付いて離れない。


『君には、護るべきモノがあるか・・・?』

『在るなら、大切にしなさい。』

『私の様に、失くしたりなどしない様に・・・。」

『・・・今の君は、弱い。』

『私も・・・人のことは言えない、か・・・。』


・・・確りと話をするには、俺の力が足りない。

話を聞いて貰うだけの、力を・・・っ。



腰にかけた無線から、声が聞こえる。


『模擬戦は終了した。圧倒的にチーム御神の勝ちだ。各自、気絶したものを医務室へ、恭也訓と美由紀君は私のところへ。』

「・・・?」


なんだろうか。

流石にやりすぎただろうか?

意識を切り替え、使った飛針などを回収して、陣内さんの処に向かった。






「いやーすまない。帰国の飛行機の事をすっかり忘れていた。」


部屋に入ってから、陣内さんの第一声はこれだった。

急いで俺と美由紀は携帯を見る。

・・・6日、日曜日。

・・・明日が始業式。


「ど、どうしよう恭ちゃん!?」

「ふむ・・・サボるか。」

「きょ、恭ちゃんはそれでいいかもしれないけど・・・。」

「ああいや、大丈夫。飛行機は夜に乗れるよう手配しておいたから。これから荷物やらを纏めるようにと。」


どうやら気づいてチケットを取り直してくれたらしい。

実践の訓練に美沙斗さんの事まで、なんとお礼を言っていいやらだ。


「ああ、夜まで時間もあるし、今日はもう訓練も終えて、お土産でも買って行ったらどうだい?」


・・・訓練にかまけて、お土産の事など完全に忘れていた。

本当に、この人には頭が上がらないかもしれない。


急いで2人で荷物を纏め、お土産を軽く見に行こう。







そうして、俺と美由紀の、初めての香港旅行?は遽しく終わることとなった。


























やっと本編に入れる・・・あとがき対談・・・は無し

inserted by FC2 system