TwiLight CroNicle 〜心の拠り所〜 第三章 芽吹きの旋律 其十一話
「♪〜、♪〜」
「これはどこだー?」
「あー、そっちの棚の右奥のほうやー。」
「了解ー。」
「♪〜」
乾いた音を立てて積まれていく濡れた皿を、一枚一枚丁寧に拭いて元の場所に戻していく。
只今高町家の朝食後、皿洗いの手伝い中だ。
皿の元の位置とか知らないから殆ど聞いてるけどな。
「おーし、洗い物終わり!手伝うで・・・・もう殆どおわっとるな。」
「おーう、これらは?」
「そっちの引き出しの上から3番目や。」
「そこか。」
拭き終わった最後の皿を引き出しの中に戻す。
「おつかれさん。」
「そちらこそお疲れ。」
互いに軽く労う。
「んー、じゃあちょい縁側でのんびりするかー。」
「そうだなー。」
煎餅と饅頭を数個載せたお盆を片手に、レンと二人で縁側に座り込む。
・・・序でに、二人して湯飲みで茶を啜ってるから、隠居した老人たちのような雰囲気が出ている。
「ずず・・・ふいー、今日もいい天気やなぁ。」
話題すらも老人の会話だった。
しかし天気か・・・。
空を見上げれば見事に快晴。
薄い雲がちらほらある程度の小春日和。
今日は・・・ん?いや、気の所為かね。
「そうじゃのう、ばあさんや。」
「誰がばあさんやねん!?」
行動が完全におばあさんだと気づいていなかったらしい。
・・・哀れな。知らぬは本人ばかりなり、か。
「なんや、ちょームカついたんやけど、失礼なこと思ってへん?」
「気のせいじゃよ、突っ込みばあさんや。」
「称号と化しとる!?突っ込みっ娘からばあさんにクラスチェンジ!?」
「てろりーん、レンは、新たに、突っ込みばあさんの称号を手にした。」
「いらんわ!?」
「ま、冗談だけどな。」
「・・・どっからが?」
それはいわぬが花というべきか。
茶を啜って一息付く。
そんな俺を見て、レンは溜息と共に一言。
「・・・まあ、おばあちゃん言いたくなるんは、分かった気がする。」
・・・年齢的にはそれ以上だからな。
あと俺はどっちかというとおじいちゃんな?髪長いけど。
「ずず・・・。」
とりあえず落ち着いたのか、またゆっくりとお茶を啜りだすレン。
・・・ふむ、レンといえば、
「そういえば・・・決めたか?」
「・・・なにをや?」
「そろそろ一月だ。宝玉の力でも、そろそろ抑えきれなくなり始めるぞ?」
レンの顔を見ると、目を見開いて固まっている。
何も驚くべきことでもない。
これは、分かっていたことでもあるんだからな。
たっぷりと間を空け、茶を啜り、ようやくレンは口を開く。
「・・・・・・まだや。」
「ん、そうか。」
別に、確実に今決めていなくてはいけないという訳ではない。
完全に保障できる残り猶予は約一月。
確実に元の状態に戻るであろう時は、大体三・・・いや、四月か。
いざとなれば無理やり病院行きだしな。
「あとちょっと、ほんのちょいとでいいんや。」
「ん、精々、倒れたりしないようにな。」
本人の意思なんか殆ど関係ないんだろうけど。
暫く、其のままのんびりとお茶を飲む。
「そや、昨日言ってた調べ物はもういいんかいな?」
「んー、まあ、ぼちぼち。」
まだ全部は読めていない。
けどあそこでは多分知りたい事は分からないのではないかと思う。
・・・殆どなかったしなぁ。
斯くなる上は・・・、
「忍び込むか。」
「どこに!?」
無論、学校に。
「ああ、しょうが――あいたぁ!?」
「秘儀、インターセプト突っ込み。」
「絶対今の突っ込みとはなんか違うやが!?」
別名、インターセプト制裁とも言う。
「はぁ・・・思ったんやけど、民間伝承とかやったら、神社にでも行けば在るんとちゃう?」
「・・・ふむ。」
神社か・・・。
行く価値は・・・在るか。
という事でやってきました八束神社。
「――そんな訳で教えてくれ。」
「いや、行き成りどうしたの?」
目に前には困惑している巫女さん、神咲那美。
「だから早く教えてよー。」
「いやいや、内容聞いていないどころか出会った瞬間にそんな事いわれても。」
「・・・かくかく?」
「しかじか。・・・って分からないってば。」
「何故分からない!?」
「何で逆切れ!?」
一々反応してくれるから面白くてつい。
「と、那美をからかうのもこの辺にして、本題に入ろうか。」
「からかっ・・・はぁ、もういいです。こんな朝から神社に何か用ですか?」
溜息つくと幸せがうんぬんかんぬん。
・・・といった冗談は置いておいて、ここにきた理由を簡単に説明する。
「・・・民間伝承とこの辺りの地脈、ですか。」
「そうそう、一応此の神社も古いだろ?何か残ってないかと思ってな。」
暫く考える素振りを見せる那美。
「うーん、確か・・・一寸古いけど、この辺りの地脈を書いた地図があるって聞いた事がある・・・様な?」
「・・・どこに?」
「多分、社務所・・・のどこかだったと思うんだけど・・・ごめんね?全く自信ない。」
・・・普通に巫女さんやってるんじゃあ、そんなもんわからなくて当然だろうに。
「いいよ、一寸見せてもらっていいか?」
「ええ、大丈夫。・・・ちょっとまってて、今鍵開けるね。」
パタパタと小走りの那美に続いて社務所へ。
神社自体がそこまで大きい処ではない為、社務所も小ぢんまりして中はとても狭い。
そんな狭い中にギッシリと本やお守りなどが並べられていて、人一人ぎりぎり通れる程度の広さになっている。
奥のほうには荷物部屋のようなものが・・・凄い勢いで書物だらけなんだが。
・・・え?これ全部見るの?
「あー・・・どうする?やめる?」
「・・・いや、見つける。一寸待ってて。」
資料の数に迷いを見せた那美。
俺は手の中に神秘を・・・おっと。
「此の中に俺が読んじゃいけないものとかって在る?」
「んー・・・多分大丈夫。」
それはよかった。
が、まあ今回は探索系だからそんなに注意しなくてもいいんだが。
・・・さて、
神秘構成、術式固定、場所は此の社務所内・・・と。
「・・・んー、【探索乃森】」
「わっ!?」
俺を中心に、波紋のように広がる光。
手懸りにのみに反応する用に設定された魔力の波紋だ。
木を隠すのなら森の中、を実践された時などによく使われる術式だ。
その波に引っかかる物の場所は・・・見つけた。
「・・・んーと、そこだ。」
「はあー・・・便利だねー。」
うん、色々便利。
俺は資料の山に手を突っ込んで、古ぼけた一冊の書物を引っ張り出す。
で、他の書物が崩れないように整えて、と。
「これはまた随分と古ぼけて・・・古ぼけて・・・何だこりゃ?」
「へ?どうしたの?」
外装は古ぼけた昔ながらの紐綴じなんだが、中身は現代のコピー用紙。
開いてみれば、古ぼけた図面が印刷されている。
「へぇ、一枚一枚コピーしてあるのか?」
「ホントだ。前の神主さんがやったのかな?」
ん?こいつは・・・。
「あぁ、いや違う。こっちが新しい情報か。」
コピーされた図面の後に、新しく書かれた此の周辺の地図と、此の辺りの霊脈などが記されている。
かなり几帳面な正確なのか、小さな霊脈、龍穴までその特徴まで書かれている。
・・・まあ、見たことあるような字だし、多分神咲の誰かが描いたんだろう。
「こんなに詳しく・・・前に何かあったのかな?薫ちゃんは何も言ってなかったと思うけど・・・。」
「まあ、何かあったんだろうねぇ。」
そんでもって、もう完全に危険は無いと判断して報告はしなかったんだろう。
「まあいいや、一寸これ借りるな?」
「あ、うん分かった。期限は特に指定しないけど、返してね?」
「盗みは基本的にしない主義なんだ。」
借りた相手が居なくなったら話は別だけどね。
その後軽く雑談をして、龍脈の確認をしに那美と分かれる。
「・・・多いなぁ。」
先ほど借りた古本、『八束神社周辺霊脈図』を開いてぱらぱらと見る。
パッと見数えただけでも・・・龍穴30はあるな。
どうやら此の土地は霊的にも特異点に近いらしい。
特異点といっても、こちらはどうしようもないんだけれども。
・・・しかも、
「なのに使えそうな場所は殆ど無い・・・と。」
どうやら数年前に何かを封印して、その為に此の辺りの龍穴の力を、殆どギリギリまでもって行ってるらしい。
他にも民家の下に来ているのが結構ある。
・・・あ、高町家下にも在る。
で、残っているのは廃ビルの処と、その他ちらほらと所々に3・4つ。
とりあえず・・・、
「使えそうなその場所だけ見てみますか。」
最初の行き先は『山の中腹』か。
「確かに、使い辛そうだ。」
その龍脈は、無地であるはずの霊脈に、属性が付与されている。
しかも天位と冥位。
確りと使えれば相当なもんだが、使いこなせなければ自滅しかねない。
・・・ま、早々そんなことにはならないがな。
どちらも使いようによっては相当いい場所だな。
封印とかには向いてないがな。
此の場所はキープと。
えーと・・・次は『山の反対側』な。
「属性まで真逆、と。」
使い辛さは同等、人位と地位の霊脈。
どちらも片方だけなら十分封印術にも使えるんだけどねぇ。
後は位置か?使われている他の龍穴は在る模様のように規則性がある。
此の場所はそれから外れている。
「ま、いいや、ここもキープと。」
次は・・・ん?真逆の『鉄道トンネル入り口の上』かよ・・・。
「うん、これは確実に場所の問題だなっ。」
電車のトンネルって入るときに少し出っ張ってるだろ?
その出っ張りの出ているところ辺りが丁度龍穴。
うろうろしてれば電車から丸見えだし、使い勝手が悪すぎる。
ここは俺も却下だねー。
最後の場所はー・・・『盆地?のような山の谷間』ねぇ。
「これは・・・なんで放置されたんだ?」
その場所は、多少の場所の不便はあれど、無地の大きな龍穴だ。
確かに規則性には外れているが、補助に回すにも大きい力だぞ?
・・・ふむ。
本をぱらぱらと捲り、此の龍穴についての記述を読んで見る。
「なるほど。前回、ここは除霊してすぐだったのな。」
悪霊などが龍穴上に出て除霊した場合、その土地には暫くの休息が必要となる。
確りと休息させなければ、霊力枯渇などが起こりかねない訳だ。
つまり・・・、
「もう休息期間は終わってるし、好きにしてもいいってことだよな!」
うん、儲けー。
「廃ビルからのコンタクトもよし、丁度いい井戸みたいな龍穴だ。」
これなら基本はここの力で賄える事になりそうだ。
他二つは、設備や趣味に回すとしようか。
位置のキープと座標とかを記録、と。
「よし、じゃあとりあえず、廃ビルの龍脈についても見に行くかー。」
肝心の場所はぜんぜん調べていなかったな。そういえば。
「くぅんっ」
「いないと思ったらこんな処に居たのか。久遠。」
先ほど、那美の所に居なかったのを不思議には思ってたんだけど、こちらで寝てたらしい。
毛並みにコンクリートの上で寝たように平らに跡が付いている。
「一寸待っててな?調べないと。」
「くぁん」
よく調べてみる。
・・・普通にいいほうの龍穴、ね。
ただ、建物の下ということで放置されていたらしい。
「んー、これでよし。と。」
今日回った場所を簡単にメモに残す。
帰ったら位置関係の計算とか術式の製作とかしないとなぁ。
んじゃあま、
「いくよー?久遠。」
「くぅんっ」
器用に床から、俺の服を引っ掛けるように方まで上ってくる久遠。
さて、那美にお茶でも入れさせてのんびりするかな?
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・?」
ハテ?
今なんか見られていたような?
・・・気のせいか。
遅れた上に・・・5千行かないし・・・あとがき対談・・・は今回はなしで